恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 いやな顔をされると思ったのに、ロランは思案顔で呟いた。
 腕の中で見上げると、アメリはロランとばちりと目をあわせた。結構な至近距離で、しばし無言で見つめ合う。

 ひゅっと息を吸い込んだかと思うと、首を痛めるかと言う勢いでロランがアメリから顔を逸らした。
 次いで両肩に手を置かれ、密着していた体を引きはがされる。

 この下品な化粧と衣装が気に入らないのだ。
 ロランの反応に傷ついたアメリは、さらにロランから離れようと一歩下がろうとした。

「ご無事ですか!? 聖剣の乙女様!」

 わらわらと集まってきたのはそこかしこにいた衛兵たちだ。
 遠くにいた者まで鼻息荒く駆け寄ってきて、何を大袈裟なとアメリは首をかしげた。

「あ、はい、わたしは大丈夫です」

 一応お礼は言おうとアメリは衛兵たちを振り向き笑顔を向け……ようとして、いきなりロランの腕に引き寄せられた。

「やはりこの服は問題があり過ぎだ……!」

 そう叫んだかと思うとロランは乱暴にマントを脱いだ。
 かと思うと目にも止まらぬ速さで、アメリの体をすっぽりと覆い隠してくる。

「へ……あの、勇者……?」

 ぽかんと見上げると、ロランは衛兵たちに睨みを利かせているところだった。
 対して衛兵たちは、なぜか不満そうな雰囲気を醸し出している。
 ロランが大きく舌打ちをすると、みなそそくさと持ち場に戻っていった。

「行くぞ、聖剣の乙女」
「あ、はい」

 肩を抱かれた状態で、アメリは再び歩き出した。

「あの、勇者……助かりました。このマント、移動中は借りててもいいですか?」
「謁見時にもずっと羽織っていてくれ」
「え、でも……」

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