恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 アメリにしてみればありがたかったが、勇者の正装である豪華なマントだ。
 この状態で王様の前に出たら、失礼に当たらないだろうか。

「いいか? 謁見時は許可が出るまで頭を下げる必要がある」
「はい、聞きました。片膝をついて頭を低くするんですよね?」
「その格好でそれをやる勇気はあるか?」

 想像して、アメリは顔を青ざめさせた。
 足が顕わになるくらいならまだマシだが、最悪重みで胸が服の外にこぼれ落ちるかもしれない。

「絶対に無理デス」
「だろう?」

 初めてロランの優しさに触れた気がした。
 うれしくて、アメリの口元がむにむにとゆるんでしまう。

「マントのことで何か言われたら俺のせいにすればいい。君の格好はあまりにも……」

 そこまで言って、ロランははっとしたように口をつぐんだ。
 それ以上は言葉を続けようとしてこない。

「あまりにも?」

 しびれを切らして聞いてみる。
 難しい顔をして、ロランは仕方ないと言った感じで口を開いた。

「君の格好は、あまりにも……あまりにも過ぎる」

 不機嫌そうに顔を逸らされる。

 拒絶されたように感じて、アメリの顔から笑顔が消えた。
 結局ロランは、下品なアメリの横には立ちたくないのだ。マントを貸してくれたのも、恐らくそれが理由なのだろう。

 気持ちがさらにしぼんでしまって、アメリは足取り重く謁見の広間に辿り着いた。
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