恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第14話 勇者伝説

「よいよい、(おもて)を上げよ」

 王様の許しが出て、アメリたちは一斉に体を起こした。
 一段高い玉座にはふくよかな王様と表情の薄い王妃様が座っている。
 謁見の広間にはほかにも大臣たちが見物していて、全員が全員アメリに注目していた。

「ふむ、そなたが聖剣の乙女か。名はなんと言う?」
「あ、アメリでございます」

 普通なら一生お目にかかれない高貴なお方だ。
 ロランとともに最前列に立たされて、アメリのふるえ声が上ずった。

「して、アメリ。そなたはなぜ勇者のマントを羽織っておるのだ?」
「そ、それは……」
「防寒対策です」

 かぶせ気味にロランがきっぱりと言い切った。

「防寒? しかし余はまったく寒くはないが」
「それはあなたの体型のせいですわ」

 無表情で王妃様が突っ込んだ。
 この広間で王様だけが玉のような汗をかいている。自分でもぽっちゃりの自覚があるのか、王様は無言で額の汗をハンカチで拭い取った。

「防寒か。あい分かった」

 気を取り直したように王様は頷いた。
 マント着用を許してもらえて、アメリはほっと息をつく。

「しかし余は聖剣の乙女の伝統衣装を見るのを楽しみにしていたのだ。ちょこっとだけでいい。そのマントを外してみてくれまいか」

 アメリの気のせいだろうか。
 王様の髭の生えた鼻の下がなんとなくだらしなく伸びきっている。

「あなた。あの衣装は先代の聖剣の乙女のときに何度もご覧になったでしょう?」
「いや、先代はもういい歳で、見てもあまり楽しくなかったと言うか……」

 王妃様に睨まれて、王様は一瞬もごもごとなった。

「いや、大臣の中には初めての者もいるだろう。今日はようやく見つかった聖剣の乙女の披露目だ。ここはやはり伝統衣装を見ないことには収まらん」

 なおも食い下がる王様に、大臣たちも賛成とばかりにうんうん頷いている。

< 33 / 138 >

この作品をシェア

pagetop