恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「あなた。いいから本音をおっしゃって」
「せっかくぴちぴちの若い娘がぴちぴちに着こなしておるのだ。これを見ない手はないというか……」
「もう結構です」

 ぴしゃりと遮ると、王妃様は表情なくアメリを見やった。

「わたくしが許します。聖剣の乙女、今後謁見時は勇者のマントを必ず着用するように」
「は、はい、必ずっ」

 そんな……と悲しそうな王様を無視して、アメリは前のめりに頷き返した。

「もうよい。次はさっさと勇者の聖剣を見せてもらおうか」

 王様の投げやりな言葉に、そんなと今度はアメリが呟いた。
 聖剣はアメリの体の中にある。それを取り出すにはロランとキスの儀式が必要だ。
 そんな恥ずかしいことをここでやれと言うのだろうか。すがる思いで、アメリはロランの横顔を見上げた。

「よもやできぬとは申すまいな? 勇者ロランよ」
「すぐにお見せいたします」
「勇者……!」

 思わず非難の声を上げる。
 対照的に、何とも思ってないと言う顔でロランはアメリに向き直った。

「聖剣乙女、手を」
「でもこんな大勢の前でだなんて……」
「君が本物の聖剣の乙女であることを証明するために必要なんだ。聖剣を見せられないとなると、偽物だと疑われることになるぞ」

 これまで虚偽申告ばかりだった乙女探しだ。
 アメリが今日ここに呼ばれた理由も、今度こそ正真正銘聖剣の乙女であると王様認めてもらうためだった。

「手を」

 もう一度促され、仕方なくアメリは覚悟を決めた。
 (てのひら)を上に向け、掲げるようにロランに差し出した。その上にロランも大きな手を重ねてくる。

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