恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 手を取り合った状態で、アメリはぎゅっとまぶたを閉じた。
 これは儀式だ。恋人同士の口づけなんかじゃない。
 心の中でアメリは自分に言い聞かせた。
 ロランの熱が近づいてくる。
 息を止め、アメリはその瞬間をじっと待った。

 戦闘時(いつも)よりもずっとやさしく、やわらかい唇が押し付けられる。
 と同時に、アメリの手の内に灼熱の光が膨れ上がった。

「んんっ」

 生じた痛みと熱に、声を出さないようアメリは懸命に耐えた。
 普段なら我慢などしないところだが、さすがに王様の前で絶叫するわけにもいかないだろう。

 広間にどよめきが上がる中、現れた聖剣の柄にロランが手を掛けた。それからゆっくりと引き抜いていく。
 まるで見せつけるかのようだった。
 一気に抜き去ればいいものを、聖剣は光が溢れ出るアメリの手の上から、もどかしいほど時間をかけて姿を現した。

「おお、これぞ正に勇者の剣!」

 歓声が上がる中、ロランが聖剣を掲げ持つ。
 緊張が解けたアメリは、その横で立っているのが精一杯だった。

「勇者ロランよ。聖剣を手に入れたそなたは、これでようやく一人前と認められた。初代勇者の再来と言われるそなただ。必ずや魔王を討ち取ってくれるであろう」
「はい、お任せを」

 ロランの返事に王様は満足げに頷いた。
 次いで宝石のついた王杖で、奥にあった大きな二枚扉を指し示す。

「あの凱旋の扉を開き、そなたらが帰還する日を楽しみにしておるぞ」

 凱旋の扉は、勝利を収めた初代勇者がくぐったとされる伝説の扉だった。
 魔王が復活するたびに新しい勇者が生まれたが、再び凱旋の扉を開いた勇者はひとりもいないらしい。

 そんなこんなで聖剣のお披露目が終了し、アメリは正式に聖剣の乙女として認められたのだった。
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