恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第15話 勇者の苦悩

 アメリのお披露目も済み、その日は王城に泊ることになった。
 旅の宿では男女に分かれた相部屋のことが多いが、今回はひとり一室を用意された。さすが城といった豪華な部屋だ。

「ロランはアメリと一緒じゃなくていいの?」
「いいに決まっているだろう。俺は今、治療が必要な怪我などしていない」
「アメリはロランの乙女だよ? 別にやせ我慢しなくったっていいのに」

 ヴィルジールの言葉を無視して、早々に部屋に引きこもる。
 窮屈な勇者の正装を脱ぎ捨てて、無駄に広いベッドへとロランは乱暴に身を預けた。

「一緒の部屋なんかに泊れるわけないだろう……」

 ロランも男だ。今アメリと夜を共にしたら、我慢などできるわけがない。
 それくらい今日のアメリの格好は、あまりにも魅力的過ぎた。
 ヴィルジールの言うように、確かに彼女はロランの聖剣の乙女だ。
 だがそれはアメリがロランの剣を持ち、ロランの傷を癒せる唯一の人間というだけの話だった。

 ――わたしに選択権はないんでしょう?
 初めて会った日に、アメリはそう言っていた。
 その言葉の裏に隠されているのは、望んで聖剣の乙女になったわけではないという彼女の本心だ。

 それなのにあの日、ロランは夢うつつにアメリの肌に触れてしまった。同意を得るわけでもなく、一方的に。
 転げ落ちた床から見上げた、アメリの強張った顔が忘れられない。
 恋人でもない男にいきなり襲われて、彼女はどれほど怖い思いをしたのだろうか。

 これまでロランは嫌がる女を抱いたことなどない。むしろ請われて相手をすることがほとんどだった。
 しかしどの女もロランのことなど見ていなかった。彼女らが欲しいのは勇者という肩書のみだ。

 富と名声目当てで寄って来る女たちは、ロランの体に残る魔物傷を見るのを嫌がった。
 回復魔法の効かない傷は常に血が滲み、絶えず膿が出て腫れあがっていた。致命傷にならない小さな傷でも、数があれば不気味にも思えるだろう。

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