恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 翌朝、近くの森へ魔物退治へにいくことになった。
 村人の話ではかなりの数の魔物がいるとのことだ。

「今回は狼型の魔物らしい。俺が先頭を剣で行く」
「取りこぼしたヤツは俺に任せてくれ」
「残りはあたしの鉄拳でとどめを刺すわ」
「わたしとヴィルジールは後方で援護射撃しつつ、アメリさんのことをお守りしますね」

 地形を見ながら、効率のいい役割分担で作戦を練っていく。
 アメリの仕事はロランに勇者の剣を渡すことと、怪我をしないようサラたちの後ろに隠れていることだけだ。

「僕の炎獄魔法を使えばきっと一瞬だよ? うっかり森ごと焼いちゃうかもだけど」
「絶対にやめてください!」

 サラの声が響いたのと同時に、獣の唸り声が茂みの奥から聞こえてきた。

「お出ましだな」
「聖剣の乙女、来い!」

 手を差し伸べてくるロランに、一目散に駆け寄った。
 このときばかりはロランの動きも乱暴だ。二の腕を掴まれて、噛みつくように口づけられる。
 一刻を争う事態なので、アメリも文句など言っていられない。
 いつものように聖剣を手渡すと、アメリは脱兎のごとく後方へと舞い戻った。

「アメリさん! 早くこちらへ」

 サラに防護壁を張ってもらって、アメリは目と耳を塞いで戦闘が終わるのをひたすら待った。
 ロランたちの怒号が響き、魔物狼が次から次へと地に伏していく。

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