恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 一番大きな群れの主が、最後のあがきとばかりにロランに飛びかかった。
 鋭い牙が腕をかすめ、それでもロランは無事に主にとどめを刺した。

「ロラン、大丈夫か!?」
「ああ、フランツ、問題ない」

 言いながらロランは血のりの付いた剣を拭った。
 ほどなくして光に包まれた聖剣が、粒子となってアメリの胸に吸い込まれていく。

「終わったな……」

 息をつき、一行は村へと舞い戻った。


「聖剣の乙女、今日も怪我はしなかったか?」
「はい、わたしは大丈夫です。それよりも勇者、最後に牙が……」
「いや、かすっただけだ。たいした怪我はしていない」

 腕を隠すようにひっこめると、ロランはそそくさと部屋に戻ってしまった。

「アメリさん、本当に怪我はないですか?」
「はい。それよりも勇者が……」
「ロランは自己管理ができる人です。必要があればアメリさんにきちんと言ってきますよ」
「そう、ですよね……」

 しかし先ほどのロランはどこか腕を庇っているように見えてならなかった。
 ロランは極力怪我をしないようにすると言ってくれたが、その手前少々の傷は我慢するつもりでいるのではないのだろうか。

 一度ベッドに入ったアメリだったが、あの日のロランの傷が目に浮かんだ。
 ずっと治らない傷を長年抱えていたと聞き、なんだか心配で眠れなくなってしまった。

「やっぱりもう一度聞きに行こう」

 問題がなければそれでいい。
 サラを起こさないよう、アメリはそっと部屋を出た。
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