恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第17話 乙女の役割

 薄暗い廊下に立って、アメリは緊張しながらロランの部屋の扉を叩いた。

「誰だ?」
「アメリです」

 何やら盛大な音がしたあと、慌てた様子ですぐにロランが顔を出す。
 ラフな格好をしているが、まだ寝てはいなかったようだ。

「こんな時間にどうしたんだ?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいこと? 明日じゃ駄目なのか?」
「すぐ済みます。昼に勇者、魔物に噛まれかけたじゃないですか。そのことを考えてたら心配で眠れなくなっちゃって……」
「なんだ、そんなことか。俺は問題ないからすぐに部屋へ戻れ」

 閉められそうな扉に、とっさに体を挟み込ませる。
 先ほどロランは一瞬アメリから目を逸らした。何かを隠してそうな雰囲気だ。

「でも戻ったときに腕を庇ってるように見えました。念のため確認させてください」

 少し考え込んでから、仕方ないといった感じでロランは腕をまくって見せた。

「これでいいだろう? もう戻れ」
「そっちの手じゃないですよね? どうして隠すんですか。問題ないならちゃんと見せられるはずでしょう?」

 じっと見上げると、根負けしたようにロランは小さく息をついた。

「そこは寒い。とりあえず中に入ってくれ」

 手狭な部屋に通されると、備え付けのテーブルに長剣から短剣までが、何本もむき身で並べられていた。
 さっきまで手入れをしていたのか、磨かれた刃先にランプの炎が揺らめいている。

「勇者っていつもこんなに持ち歩いてるんですか?」
「ああ、いつ魔物が襲ってくるか分からないからな」

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