恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 いかに勇者と言えど、アメリがそばにいなければすぐに聖剣を振るうことはできない。
 それに魔物傷を作らないよう、ロランは気を張り続けてこれまで過ごしてきたのだろう。

 だがロランにはもうアメリがいる。
 怪我をして良いわけではないが、少なくともやせ我慢する意味は見当たらなかった。

「じゃあ、確認させてください。問題なければすぐ出て行きますから」

 仁王立ちで圧をかけると、ロランはさっきとは反対側の袖をまくろうとした。
 しかしうまく袖が上がらない。よく見ると腕が一回り太いように見えた。

「なんかそっちの手、腫れてません?」

 軽く触れるとロランは痛そうに顔をしかめた。

「やっぱり怪我してるんですね!? いいからちゃんと見せてください」
「おいっ」

 上着の裾に手をかけて、無理やりロランの服を脱がしにかかる。
 勢いのまま裏返ったシャツを引き抜くと、肘下あたりが赤黒くぱんぱんに膨れ上がっていた。

「ひどい……」
「いま急に腫れてきたんだ」
「そんなはずないでしょう? どうして嘘なんかついたんですか」
「戻ったときはここまでじゃなかった。噛まれたのは服の上からだったし、あのときは大丈夫だと思ったんだ。嘘じゃない、本当だ」

 だとしたら数時間でここまで悪化したと言うことだ。
 このまま放置すると、明日にはもっとひどいことになっているのは目に見えている。

「必要ですよね……治療」
「ああ。と言いたいところだが、そのために自分が何をされるのか、君はきちんと理解しているのか?」

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