恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 その言葉に、アメリの頬にかっと熱が集まった。
 一方、確かめるような口調のロランは、あまりいい顔をしていない。
 ロランの魔物傷を癒すには、アメリが性的に気持ちよくなる必要がある。
 一度はできたことだった。処女のアメリでも今度もうまくやれるはずだ。

「ちゃんと分かってます。わたしも子供じゃないですから。勇者はわたしなんかに触るのは嫌かも知れないけど……」
「そういうことを言ってるんじゃない」

 怒った感じのロランにしり込みしそうになった。
 だがここまで来たら女は度胸だ。今さらやめるとは言えるはずもない。

「わたしだってみんなの役に立ちたいんです」
「役になら十分立っている。君は聖剣の持ち主だ」
「そうですけど」

 それだけでは不十分だ。
 みんなが命懸けで戦っている間、アメリは守られながら後ろで震えているだけだ。
 旅にしても体力のないアメリの足に合わせて、進み具合が遅くなっていることも知っている。

 足手まといにしかならないことが、ずっと心苦しくて仕方がなかった。もっとちゃんとした働きを見せないと、自分に価値が見いだせない。
 魔王討伐のメンバーとして、恥をさらしているようにしか思えなかった。

「わたし、勇者の聖剣の乙女なんですよね? だったらちゃんと役割を果たさせてください」

 遠慮せずに自分を使ってほしい。
 その思いで見上げると、諦めたようにロランは長く息を吐いた。

「分かった。傷が癒えるまで、今夜は俺につき合ってもらおう」

 ふたりきりの狭い部屋の中、アメリは無言で頷き返した。
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