恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第18話 翻弄

「ここではなんだ。とりあえずそこに座ってくれ」

 ベッドの上を指定され、アメリは覚悟を決めて自ら腰を下ろした。ぎしりと揺れたスプリングの分だけ、アメリの鼓動も跳ね上がる。
 近づくロランにさらに緊張が高まっていく。じっと見降ろされ、アメリの視線が行き場のなく宙をさまよった。

「あの……」
「やめておくか?」
「そ、そうじゃなくって! その、明かりを消してもらえませんか? わたし、勇者以外の男の人とこういうことした経験がなくて……」

 この年で男性経験がないとカミングアウトするのは恥ずかしい。同年代の知り合いは、子供が何人もいる者がほとんどだ。
 だが体を見られるのはもっと恥ずかしかった。
 この大きな胸は昔からのコンプレックスだ。王城でも下品と思われたことが、その思いに拍車をかけている。

 アメリの要望通りに、ロランはオイルランプの芯を短くして明かりを小さく落とした。
 次いで自身もベッドに乗り上げてくる。

「完全には消してくれないんですか?」
「君の体を傷つけたくない。悪いがこの程度で妥協してくれ」
「わ、分かりました」

 確かに真っ暗闇ではロランもアメリに触れづらいだろう。
 納得してアメリは素直に引き下がった。

「片腕が利かないから、後ろから触れさせてもらう。聖剣の乙女、君はここに座って俺に背を預けてくれないか?」

 ヘッドボードに寄り掛かったロランが、自分の足の間の空間を指で示した。
 覚悟を決めて、軋むベッドの上を四つん這いで進む。アメリは身を小さくして、なんとかロランの前に収まった。

「もっとちゃんと寄りかかっていい」
「ひゃっ」

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