恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 腹に巻きついた腕に引き寄せられて、アメリの背中がロランの胸板に密着する。
 がちがちに身をこわばらせていると、耳元でロランが囁いた。

「今ならまだやめられるぞ?」
「やめなくていいです。勇者が怪我したままだと旅に支障が出ます。みんなを危険にさらすつもりですか?」

 アメリはわざと強めの言葉を選んだ。
 だから怖がっている場合ではないのだと、自分自身を奮い立たせるために。

「分かった。できるだけやさしくするが、万が一痛かったら我慢せずに言ってくれ」

 返事をする前に、ロランの利き手が動くのが見えた。
 怪我をしているもう片方の腕は、ベッドの上に投げ出されている。腫れあがった肌が何とも痛々しい。
 魔物と戦うことは常に命の危険と背中合わせだ。
 違う意味で怖くなり、ぎゅっとまぶたを閉じる。こんな不安な精神状態で、ちゃんとロランの傷を癒せるだろうか。

「まずは服の上から触る。いいか?」
「は、はい。いいから早くやっちゃってくださいっ」

 気を使ってくれているのだろうが、聞かれると余計に緊張が煽られてしまう。
 それなのにロランの方が切羽詰まった声を返してきた。

「こっちも余裕がないんだ。あまり俺を煽らないでくれ」
「え? あ、ごめんなさ……ひゃっ」

 それほどに傷が痛むのだと謝ろうとしたとき、ロランの手が乳房を掬い上げてきた。
 服越しにやわやわと揉み込まれ、アメリの呼吸が一瞬止まる。いきなりつままれた胸先に、甘い快感が走り抜けた。

「あぁんっ」

 自分の大声に驚いて、思わずアメリは口を両手で覆った。
 続けられる刺激に、それでも熱い吐息がもれそうになる。

「痛かったか?」

 痛みとも違うなんとも言えない感覚だ。
 それをうまく言葉で言い表せなくて、アメリは否定を示すためにただ首を振り返した。

< 45 / 143 >

この作品をシェア

pagetop