恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 快楽の波が一気に高まった。
 初めてロランを癒した日と同様に、アメリの意識が真っ白い何かに飲み込まれていく。
 あと少し。
 その至福が弾ける寸前で、突然すべての刺激がなくなってしまった。
 不完全燃焼の状態の中、ぺちぺちとアメリは軽く頬を叩かれた。

「大丈夫か? 聖剣の乙女」
「……ゆうしゃ?」

 混乱したままロランを見上げた。

「ああ、もう十分だ」

 アメリはまったく十分じゃない。
 あと少しだったのに。そんな思いが、火照った体の奥でどうしようもなくくすぶっていた。
 抱き起こされて、気づくと乱れた衣服をロランに整えられている。

「あ……えっと……」
「ゆっくりでいい。起きられるようになったら部屋まで送る」

 ようやく状況を思い出し、アメリはロランの傷が完全に癒されたのだと理解した。

「明日の出発は正午に遅らせる。それまで君はゆっくり休んでくれ」
「でも……」
「大丈夫だ。理由は俺の体調のせいにしておく」

 涙に濡れたままのアメリの頬を、ロランの指がやさしくなぞってくる。

「今日は無理をさせて悪かった」
「慣れてないだけで、別に無理はしていません」
「それを無理と言うんだろう」

 視線を逸らすと同時に、大きな手も離される。
 後悔が残るその顔を、アメリはぼんやりと見つめていた。
 やはりロランはできればアメリに触れたくないのかもしれない。分かっていたはずなのに、それを悲しく思う自分がひどくみじめだった。

「怪我をしないように、これからはもっと気をつける」
「……ありがとうございます。でも」

 ロランの聖剣の乙女として、これだけは言っておかなくては。
 アメリはそう自分を奮い立たせた。

「怪我をしたときは絶対に隠さないでください」
「ああ、分かった。約束する」

 その返事にほっとした。

 またロランに触れてもらえる。
 そんな(よこしま)な思いに、アメリは気づかなかったふりをした。
< 49 / 143 >

この作品をシェア

pagetop