恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「まさか。僕が魔術探査をしたら、一目で聖剣の乙女かどうか分かるからね。ロランがひとりひとり確認したいって言うなら止めなかったけどさ」
「言うか」
「で、勇者の剣はどこ? あたし見てみたいんだけど」
「そうだな、俺も実物に触ってみたい」
「あれは無闇に出すもんじゃない。戦闘時に確認しろ」

 ロランはずっと不機嫌顔だ。
 勇者の剣は必要がなければアメリの体の中に戻ってしまう。先代の乙女はもうこの世の人ではなかったので、今まではずっと持っていられたそうだ。

「アメリさんも長旅でお疲れでしょう? 今日の所は休ませてあげないと」

 神官のサラは回復系の白魔法専門だ。
 やさしい態度とまなざしは、神職者というより聖女様のような雰囲気に見える。それがアメリのサラへの第一印象だった。

「あら? アメリさん、お手を怪我されてますね」
「これはただのあかぎれで……汚い物見せてすみません」

 サラの白い肌を前に、恥ずかしくなったアメリはさっと手を隠した。

「聞いたわよ、アメリって継母にいびられてたんだって?」
「はぁ……まぁ、こき使われてた事は確かですね」
「それでこんなひどいあかぎれに? アメリさんに癒しの風を!」

 痛ましい表情でサラがアメリの手を取った。
 あたたかい光が差し込んで、みるみる内にあかぎれが消えていく。

「すごい……」

 初めて見る白魔法に、アメリは感嘆の声をあげた。

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