恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「アメリさん、やっぱりお辛そうですね。ロラン、ここら辺で一度休憩にしませんか?」
「ああ、分かった。ちょうどいい、あそこに行こう」

 大木の木陰を見つけ、アメリは木の根元に腰を下ろした。
 途端にどっと疲れが押し寄せる。

「俺とマーサは周辺を見回ってくる」
「アナウサギもいそうだし、ついでにひと狩りしてくるわ」
「わたしも人を探して魔物情報の聞き取りに行ってきますね」
「サラが行くなら僕も行くよ」
「ヴィルジールはついてこないでください」

 えー、と抗議するヴィルジールは、それでもサラとともに行く気満々のようだ。

「あまり遠くに行きすぎるなよ」

 ロランの声がけにうなずいて、賑やかに四人は離れていった。
 気づくとロランとふたりきりだ。

 アメリのすぐ横に座ると、ロランは黙々と短剣を磨き始めた。会話もなく、ふたりの間をさわやかな風が吹き抜ける。
 手持ちぶさたのアメリは地面に揺れる木漏れ日を見つめた。
 休憩が必要だったのは、結局のところアメリだけだったということだ。

「旅はきついか?」

 ふいに問われ、アメリは唇を噛みしめた。

「……すみません、わたし足手まといで」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか」
「そんなことって……」
「ゆっくり進めばその分情報に目が行き届く。これまでは魔物被害を取りこぼして、逆戻りを余儀なくされたことも多かったからな」

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