恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第21話 理由

 その日、道に迷った一行は、夜になってようやく一軒の宿屋に辿り着いた。
 面倒くさそうに出てきた宿のおかみが、これまた面倒くさそうに対応してくる。

「また勇者御一行様かい? どれどれ、今度はなかなか美男美女ぞろいじゃないか。あんたたち割といい線いってるよ」

 こんな反応は実はこれが初めてではなかった。なんでもニセ勇者たちがあちこちで出没しているらしい。
 横柄な態度で不評を買っている者すらいて、本物のロランたちがいい迷惑をこうむっていた。

「あんたが勇者で、あんたは黒魔導士、竜騎士の兄ちゃんにそこのあんたは武闘家か。そっちの別嬪さんが女僧侶かい? そしてあんたは……」

 最後にアメリを見やっておかみはぷっと笑いを漏らした。

「どうやらあんたが最近見つかったっていう聖剣の乙女役のようだね。おしいねぇ。噂では聖剣の乙女は絶世の美女で、城の男どもを一瞬で虜にしたって話じゃないか」

 アメリでは役不足と言いたいのだろう。
 独り歩きをしている噂を前にして、何も言い返せないアメリだった。

「とにかくこんな時間じゃ夕飯は用意できないねぇ。部屋があるだけでもありがたいと思っとくれ」

 小さな村で夜に開いている食堂や酒場もないそうだ。
 今夜は携帯食でやり過ごそうとなったとき、おずおずとアメリが手を上げた。

「あの、だったら厨房を貸してもらえませんか? わたしが何か作りますので」
「でもアメリさんもお疲れでしょう?」
「簡単なものならすぐ作れると思うので。みなさんも温かいもの食べたくありませんか?」

 早朝に出発してから碌なものを口にしていない。
 おかみの了承を得て、アメリは厨房に立った。
 慣れない道具やかまどに苦戦しながらも、手際よく調理を進める。
 いい匂いが漂ってきて、あっという間にアメリは人数分の料理をテーブルに並べ上げた。

「お待たせしました。お口に合うといいんですけど」

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