恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 煮込まれた具沢山のスープにメインの肉料理に加え、小さなデザートも添えてみた。
 パンだけはおかみが用意してくれたので、スライスしてチーズを挟んである。

「わお、美味しそう!」
「すごいです、アメリさん」
「へー、アメリってこんな才能あったんだ」

 湯気の上がる料理を前に、マーサ、サラ、ヴィルジールが感嘆の声を上げる。

「すみません、食材もあまりなくてこれしか作れなくて」
「何言ってるんだ。これだけあれば十分だ。な、ロラン」
「ああ、もちろんだ」

 一行はあっという間にアメリの料理を腹に収めた。

「片付けはやっておきますので、みなさんは先に休んでください」

 アメリの申し出にサラだけが厨房に残ってくれた。
 ほかのメンバーはおのおの部屋に引っ込んでいく。

「すみません、サラさんにまで手伝ってもらっちゃって」
「こういったことは一緒にやった方が早いですからね」

 サラは魔物との戦闘には加わらないが、防御の補助や味方の攻撃威力を増加させる魔法などでみんなを助けている。
 今日の昼にも魔物と遭遇したので、魔力を消費して疲れているはずだ。
 その点アメリは例のごとく後ろで見ているだけなので、それは楽なものだった。

「こっちこそ、アメリさんにすべて押しつけてしまって」
「いえ、みんなに喜んでもらえてわたしもうれしかったです」

 いつも旅の足手まといになっているアメリだ。
 それが今日ようやく役に立てたように感じて、アメリはほっとしたような充足感を覚えていた。

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