恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「……っつ!」
「勇者?」

 突然上がった苦痛の声に、アメリは我に返った。
 寄り掛かったアメリの足が、ロランの傷に当たってしまっている。慌ててロランから離れ、アメリは自分の足でしっかりと立った。

「ごめんなさいっ」
「いや、大丈夫だ。大袈裟にしてすまない」

 微妙な雰囲気のまま、ふたりは無言で先ほどと同じ姿勢を取った。
 とにかくやり遂げなければ、ロランの傷は治せない。

「……んんっ」

 触れられている場所に意識を集中するも、また傷に当たってしまわないかとそちらばかりが気になってしまう。
 先ほどから快楽の小さな波は来ているのに、いつものように絶頂には至らない。イカなければと焦れば焦るほど、至福からはどんどん遠ざかっていった。
 痛みを抱えた中で、ロランはあの手この手でアメリを気持ちよくしようとしてくれている。
 それなのにアメリはちっとも快楽を拾えなくて、不甲斐なさにじわりと涙がにじんできた。

「……ごめんなさい、わたし」

 自分の役立たずぶりに顔を覆ってしまったアメリに、ロランも動かしていた手を止めた。
 そっと顔から手をはがされ、泣き顔を見つめられる。
 むしろ泣きたいのはロランの方だろう。そう思ったら、余計アメリの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「泣かないでくれ。女性は体調で気分も変わるものだろう? それにこんな傷を見せられて、気持ち悪く思っても仕方がない」
「そんなふうに思ってません」
「ありがとう……君はやさしいな」

 どこかさびしげに笑ったロランはアメリの乱れた寝間着を整え始めた。

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