恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 父親が後妻を迎えて、アメリの人生は一変した。最初は継母と連れ子の姉に陰で意地悪をされるくらいだった。
 それが父親が亡くなったあと、気づけば家の権利も家財道具も何もかもを奪われていたのだ。
 他に身寄りのなかったアメリはそれからというもの、継母達にただ働きを強いられる日々を送っていた。

 そんな時に来たのが聖剣の乙女の話だ。
 小間使いがいなくなるのは面倒だと渋っていた継母も、大金を積まれた途端、ふたつ返事でアメリを家から放り出した。

「あのオバサン、相当がめつかったね」
「アノヒトはそういう人間ですから」

 おかげであの家から解放された。
 家族との思い出の品も継母に売り払われてしまったので、未練などもう何もない。

 はじめこそアメリも戸惑ったが、はるか片田舎まで探しに来てくれたヴィルジールには感謝しかなかった。
 だからアメリは魔王討伐の旅で命を落としたとしても、それはそれで構わないと思っている。

「これからはあたし達が仲間だよ!」
「そうだな、俺で良ければいつでも話を聞いてやるぞ」
「何か困った事があったら遠慮なく言ってくださいね」
「淋しくなったら僕が添い寝してあげるから」
「ドサクサに紛れてふざけた事言うな」

 なんだか賑やかな旅になりそうだ。
 諦めていた人生が突然開けて、そんな予感にアメリは胸を高鳴らせた。

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