恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「今夜はやめておこう」
「でも」
「このまま続けても君に負担がかかる」

 しかしそれではロランの傷は治らないままだ。
 明日治せたとしても、一晩中痛みに(さいな)まれるかと思うと放っておくなどできるわけがない。

「座れないくらい痛むんですよね? 勇者がそんな状態じゃ、わたし気になって一晩中眠れません!」

 食ってかかる勢いのアメリに、ロランは驚きで目を見開いた。
 そしてふっと表情を和らげる。

「ああ、君はそういう人だったな」
「そういう人って?」
「後先考えずに、男の部屋に単身乗り込んでくるような、ってことだ」

 聖剣の乙女の役割とはいえ、二度目は自分の意思でロランに身を預けた。
 何も言い返せないアメリを見て、ロランはすまなそうな顔をした。

「いや、君の勇気には感謝している。今こうしていられるのも、あの日君が俺の部屋に来てくれたお陰だ」

 やさしく頬を包まれて、親指の腹で涙を拭われる。
 大事にされていると勘違いしてしまいそうで、アメリは思わずロランから目を逸らした。

「ではこうしよう。もう一度だけ試してみて、駄目なら潔く諦める。そのときは君も体調を万全にするために、今夜はぐっすり眠ること。いいか?」

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