恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 気づけばロランの腕の中に、ぐったりと身を預けていた。
 寝間着もとうに整えられていて、空は少しずつ白みかけている。

「ご、ごめんなさいっ」

 慌てて身を起こした。
 今から横になっても、大した時間は眠れないはずだ。

「いや、大丈夫だ。今日も出発を遅らせよう」

 頷いてふらつきながら立ちあがると、アメリが座らせられていた机が目に入った。
 一瞬、ロランにされた恥ずかしい場面がよぎったが、それよりも衝撃的な事実にアメリは叫び声を上げた。

「きゃあっ、机にシミがっ!」

 明らかに最初にはなかった黒いシミが、まるで水をこぼしたかのように広がっている。
 したたり落ちたような跡もあって、その下の床も同じようなシミを作っていた。

「いやぁあああっ」

 どう考えてもそれはアメリが零した体液だ。
 そこら辺にあった布を鷲掴むと、アメリは必死の形相でその部分をこすりつけた。

「ぜんぜん落ちない……!」
「せ、聖剣の乙女……」

 呆気にとられたロランに後ろから肩を掴まれる。

「それは俺の服なんだが……」

 手に取った布を見やると、それは確かにロランのシャツだった。

「そんなこと知りませんっ!」

 ぷんすこ怒るアメリに、ロランは困ったように頭をかいた。

「分かった。次のときはちゃんと下に布を敷こう」

 恥ずかしさで潤んだ瞳のまま、そういう問題ではないとアメリはロランを睨みあげた。
< 67 / 138 >

この作品をシェア

pagetop