恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「きゃははっ、初心(うぶ)な反応! これじゃロランもたまんないわっ」
「ゆ、勇者とはそんな仲じゃありません!」
「隠さなくたっていいじゃん。みんな知ってることだしさ」
「え、みんな? サラさんも?」
「あー、サラ、そういう話嫌いだかんね。気づいてないフリしてんじゃない?」

 お高くとまっててやんなっちゃう。
 マーサの小言など耳に届かず、アメリは呆然と言葉を失った。

「なに驚いてんの? ロランの傷が癒えたってことはそういうことだし? 隠してたってすぐ分かるって」

 大人の対応といったところか。
 知られていると分かった途端、アメリは気まずく感じずにはいられなかった。

「で、どうだったわけ、ロランの具合は?」
「傷は毎回きちんと治ってますけど」
「ウケる、そっちの具合じゃないってば! アメリ、どんだけ純真な乙女なわけっ」

 涙を浮かべてまで大笑いするマーサに、さすがのアメリもムッとしてしまった。
 話がかみ合ってないのは何となく分かったが、そんなに笑われるようなことなのだろうか。

「まぁ、ロランの怪我が治ったんなら聞かなくっても分かるケドさ。昔はロランも遊びまくってたみたいだし? 女を(ヨロコ)ばすなんてお手の物だよね」

 明け透けなマーサの言葉に、自分の返事がいかに頓珍漢だったかがようやく分かる。
 しかしそれ以上にロランの昔話に、傷ついているアメリがいた。

「いいなぁ、アメリ。ロランも結構いい筋肉してんじゃん? 前に一回誘ってみたんだけどあっさり断られちゃってさ。またお相手願おっかな」
「お相手って……よ、夜の?」
「そそ、夜の」
「で、でも、マーサさんにはフランツさんが……」
「そんなん別腹よ。あたしひとりには拘んない方だし? いろんな相手と試してみたいじゃん」

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