恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 あっけらかんと言われ、返す言葉が見つからない。
 なんだかフランツに同情心が湧いて来る。

「もしかして、ヴィルジールさんも誘ったんですか……?」
「ヴィルジール? ないない。顔は良くっても、ああいう優男は趣味じゃないし。やっぱ男は筋肉で選ばないと」
「はぁ、そうなんですね」

 同意できる要素がほぼなくて、アメリは愛想笑いだけ返した。

「あー、ねぇアメリ。あたしさ、女もイケる口なんだ。筋肉もいいけど柔らかい肌もまた違った楽しみがあるし」

 寝間着姿のアメリを、マーサが熱のこもった目で見つめてくる。

「いいトコ知ってる分だけ、女同士って結構気持ちいいのよ? ね、一回あたしと試してみない?」
「えええっ!?」

 自分の体を抱きしめて、アメリは無意識に後ずさった。

「やーね、無理やり襲ったりしないって。ま、その気になったらいつでも言って」
「まさかマーサさん、サラさんにも声かけたりしてませんよね……?」
「え? したけど?」
「ふぇっ!?」
「聞いといてなに驚いてんの? まぁドン引かれて、あれ以来サラには嫌われてるっぽいけど」

 ま、どうでもいいけど、とマーサは軽く肩をすくめた。

「うん、でも納得したわ」
「納得?」
「そ、なんでアメリとロラン、同じ部屋にしないんだろうってずっと思ってたのよ。アメリがこんなんじゃロランも手を出しづらいのも仕方ないって思ったし?」

 茶化すように言うマーサには、それでも悪意は感じない。
 口が悪いが、その分嘘はつけない性分なのだろう。

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