恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「ま、そんだけアメリがロランに大事にされてるってことなんだろうけど」
「勇者とはそういう仲じゃありません。わたしは、ただ聖剣の乙女に選ばれたってだけだし……」
「でもあんたたち、ヤることはヤってるんでしょう?」
「それは魔物傷を癒すのに必要だから……勇者だって好きでわたしに触れてるわけじゃないんです」

 自分で言って悲しくなってきてしまった。
 だがそれが真実だから仕方がない。

「何よ、ソレ。ロランとは体だけの関係って言いたいの?」

 そういうのとも違う気がしたが、うまく言い表せなくてアメリは無言で頷いた。

「ねぇ、アメリってさ、どうしてそんなに卑屈なわけ? 見ててちょっとイラつくんだけど」

 向けられたトゲに、アメリは何も言い返せなかった。
 好きで卑屈でいるわけではなかったが、どうあっても自分に価値を見いだせない。

「体だけの関係? 上等じゃない。勇者を癒せるのは聖剣の乙女だけなんでしょ? 素っ裸の勇者を跪かせられるのがこの世で自分独りだなんて、あたしだったら興奮してゾクゾクしちゃうわ」

 言っている内容はアレだったが、マーサの言いたいことは何となく理解できた。

「そんなふうに思えるのはマーサさんが強いからですよ。わたしはサラさんとかみたく美人でもないし……」
「意味分かんない。そんだけの体持ってんのになんでそんなに自信がないのよ?」
「ただ胸が大きいってだけです。自信なんか持てません」
「なに? ロランってアメリのことそんなにぞんざいに扱ってんの?」
「え?」

 いきなり矛先がロランに向いて、アメリは驚きで顔を上げた。
 そのとき隣の部屋から、何かをひっくり返したような騒がしい音が聞こえてきた。気にしつつ、マーサに目を向ける。

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