恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第25話 乙女、食べられる

「うおおぉおおおぉっ!」

 鬱蒼とした森の中、高く跳んだロランの剣が、杭を打つように大蛇の頭を貫いた。
 大地に頭部を縫い付けられた大蛇は、最後のあがきで長い尾をくねらせる。木々をなぎ倒し波打っていた体躯は、やがてぴくりとも動かなくなった。

「終わったか……?」

 いまだ警戒を解かぬままフランツが呟いた。
 と同時に魔物に刺さっていた勇者の聖剣が、光の粒子となってアメリの胸に吸い込まれていく。
 魔物を切り刻んでいた剣が、身の内に消えていくのはあまり気持ちのいいものではない。引き気味にアメリが聖剣を体内に収めると、一行はようやく息をついた。

「聖剣がアメリに戻ったってことは、魔物は殲滅できたようね」
「そうですね。もう魔物の気配も感じられませんし」

 周囲から魔物の殺意が消え去ったとき、聖剣は用済みとばかりにアメリに戻る。
 アメリが勇者一行に加わってから、それが戦闘終了の合図となっていた。

「聖剣の乙女、怪我はないか?」
「はい、わたしは無傷です」
「サラ、疲れているところ悪いが、念のため全員に回復魔法をかけておいてくれ」

 頷いたサラが長い杖を天高く掲げ持つ。

「ここにいる全員に癒しの旋風を!」

 杖から放たれた光が渦を巻き、立ち昇ったかと思うと一行に光のシャワーが降り注いだ。

「サラの愛、しっかりと受け取ったよ~」
「ただの回復魔法です」

 黒マントを広げ両腕を天に掲げるヴィルジールに、サラは相変わらずの塩対応だ。

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