恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「しかし今日の魔物は手強かったな」
「ああ、みんな大きな怪我もなく済んでよかった」
「そう言うロランはどうなのさ? サラの魔法じゃ魔物傷は治せないでしょ?」
「お、今夜もアメリの出番じゃん!」
「マーサさん、こんなときに茶化さないでください!」

 ロランへの癒し行為は、すっかりみんなへと知れ渡ってしまっている。
 できることならそっとしておいてほしいが、恥ずかしがっている場合ではないこともアメリは十分承知していた。

「あの、勇者。必要なら遠慮はしないでくださいね」
「ああ、ありがとう。今日は特に大丈夫だ」

 ロランの返事にほっと息をつく。
 安心したような残念だったような、そんな心境になりつつも、ロランが無事に越したことはないと自分に言い聞かせるアメリだった。

「じゃあロラン、帰るとするか」
「いぇいっ、今夜はご馳走ね!」
「久々の大物だったから依頼主も奮発してくれるかな~」
「みなさん、ここ一帯は食人植物がいますから、まだ油断しないでくださいね」
「植物が()()?」

 サラの言葉に植物は生えるものだろうとアメリは首をかしげた。

「魔物の一種なんです。刺激しなければ襲ってくることはないんですけど……」
「人間を丸呑みして、溶かして食べちゃう葉っぱみたいな魔物さ。アメリも踏まないように気をつけて」
「踏む?」
「地面に蔦を伸ばして獲物が引っかかるのを待ってるんです」
「そうそう。アレ踏むと、ぐにゅっとしてて気持ち悪いんだよね~」

 ぐにゅ。

「ふぇ?」

< 74 / 143 >

この作品をシェア

pagetop