恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 アメリの靴底がずりゅっと滑る。
 芯があるようでいて、周りがぶよぶよした何かを踏みつけたような感触だ。

「きぃやあああああぁあああぁあっ」
「聖剣の乙女……!」

 次の瞬間、足首に絡みついた蔦に引っ張られ、アメリは宙吊りにされていた。
 一度高く持ち上げられたかと思うと、木々の合間を高速で引きずられていく。
 しなる枝に四方八方鞭打たれて、ロランたちがあっという間に見えなくなった。

「いたっいたいっやぁっいたっいたっいたいぃ……っ!」

 無我夢中で太い枝に掴まるも、蔦の力が強すぎてあっさりと引きはがされる。
 途中どこかに背中と頭を強く打ちつけて、アメリの意識が遠のいた。
 ズキっと走った痛みに顔を上げる。
 一転して、じめじめした薄暗い場所にいることにアメリは気がついた。

「さっきまで森の中だったのに……」

 アメリの声が籠ったように響く。
 湿度の高いここは随分と狭い空間のようだった。
 目が慣れてくると真っ暗ではないことが分かってくる。
 壁には葉脈のような筋が走っていて、縦長の細い隙間からは陽の光がうっすらと差し込んでいた。

「ひゃっ、冷たっ」

 頭上からびちゃっと何かが降ってきて、アメリのこめかみから頬を滑り落ちていった。
 水というよりドロッとした粘液状のものだ。

「服が溶かされてる……?」

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