恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第26話 怖かった

 降り注いだ陽光に目を細める。
 広げられた壁の向こうにいたのは、青ざめた顔のロランだった。

「大丈夫か、乙女!」

 アメリに巻き付いた触手を、短剣でブチブチと切り解いていく。
 差し伸べられた手が脇を支え、粘液まみれの体がずるりと外へ助け出された。

「消化液にやられているな」

 少しの力でアメリの服はボロボロちぎれてしまう。ロランが何か呪文を唱えると、アメリの全身から一瞬でベトベトが消え去った。
 原形をとどめていないボロ布の間から、赤く爛れた肌が陽の元に晒される。自分が痛みに触れたかのように、ロランは顔を歪ませた。

「ゆうしゃ……わたし……死ぬ、かと思った……」

 唇を震わせて、呆然とアメリは呟いた。
 極限で麻痺した心に、ゆるゆると安堵がしみてくる。

「来るのが遅れてすまなかった」

 素早く脱いだマントでアメリを包み込むと、ロランは頬にそっと手を当ててきた。
 ロランの熱に触れ、アメリの瞳から堰を切ったように大粒の涙が溢れ出る。

「あああっ、ゆうしゃ! わたし、こわ、怖かった、怖かったの、し、死んじゃったらどうしようって……!」

 しゃくり上げながら、ロランにしがみついた。

「ああ、もう大丈夫だ。すまない。本当に怖い思いをさせた」

 後頭部をやさしく撫でられて、アメリは子供のように泣きじゃくった。

「ゆうしゅ、ゆうしゃ! わたし、ほんとうに怖かったの! 死んだらっ、ゆうしゃ、の傷、な、治せないって……そしたらゆうしゃ、ずっと痛いまま、って……そ、思ったら、わたし、わたし死んじゃったらどうようって、すごくすごく怖かった……!」

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