恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 ロランがはっと息を飲む。
 背に回されたロランの腕に、苦しいほどアメリは抱きしめられた。

「君って人は……」

 えぐえぐと嗚咽を漏らし続けるアメリの髪に、ロランが顔をうずめてくる。
 絞り出すように、ロランは耳元で囁いた。

「聖剣の乙女、君は俺が必ず守る……もう二度と、こんな怖い目に合わせはしない」

 その言葉を、アメリはどこか遠くのように聞いていた。
 まぶたが重すぎて、次第に意識を保てなくなる。

「ロラン! アメリさんは!?」

 何もない空間から、ヴィルジールに肩を抱かれたサラが現れた。
 アメリの姿を認めると、サラはヴィルジールを突き飛ばす勢いでこちらに駆け寄ってくる。

「サラ、彼女は粘液で肌をひどくやられている。すぐに回復魔法を」
「分かりました。アメリさんに癒しの風を……!」

 全身が光に包まれて、アメリの肌から痛々しい赤みが消え去った。
 しかしアメリの目はいまだ虚ろだ。唇は色を失くし、寒いのか体が小刻みに震えている。

「サラ、もっと強くかけられないのか?」
「これ以上は……食人植物は飲み込んだ人間の生気を吸い取るんです。魔法で生気を回復させることは、かえってアメリさんの命を危険に晒します」
「まずは動けなくしてからじわじわ溶かして食べるなんて、この魔物なかなかいい趣味してるよね」

 楽しそうに言うヴィルジールを無視して、サラは全員に防御力増強の魔法をかけた。

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