恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「とにかくこの森を出ましょう。アメリさんを早く安全な場所に連れて行かないと。ヴィルジール、ロランの代わりにアメリさんを運んであげてください」
「いや、いい。彼女は俺が運ぶ」
「でもロラン。あなたもひどい怪我をしてるでしょう?」
「聖剣も持たずにいきなり単独行動を取るからさ。いくらアメリを追うためだからって、闇雲に魔物の森を駆け抜けるなんて自殺行為もいいところだよ?」

 ふたりの言葉を無視して、ロランはアメリを横抱きにして抱え上げた。
 歩を進めるほどに、ロランの額に油汗がにじんでくる。

「勇者? 怪我してるの……?」
「大したことはない」

 ぼんやりとした意識の中で、アメリはロランの胸元を見た。
 裂けた服の合間から、深い切り傷が覗いている。

「酷い傷! すぐに癒さなきゃ……!」
「大丈夫だ。まずは自分の回復を優先させるんだ」
「わたしなんてどうでもいい! はやく勇者の傷を……!」

 青白い顔でアメリはロランの腕から降りようと身をよじった。
 しかし息切れとめまいのせいで、うまく力が入らない。

「お願い、わたしよりも勇者を……」

 それでもアメリはうわ言のように言い続けた。
 そんなアメリをロランは大事そうに抱きしめる。

「サラ、頼む、彼女を魔法で眠らせてくれ」
「だ、め……」

 力なく訴えるも、サラが何か呪文を唱え始める。

 あたたかい光に包まれたアメリは、ロランの腕の中ですうっと深い眠りに引き込まれていった。
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