恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 立ちふさがったサラを押しのけようとするも、アメリはその場でへたり込んでしまった。

「アメリさん、まずは食事を摂ってしっかり体調を整えてください。それからでないとロランの元には行かせられません」
「そんな悠長なこと言ってられないです! 今だって勇者は苦しんでるかもしれないのに!」
「まぁまぁ、アメリ。落ち着きなって」

 マーサに助け起こされ、アメリは近くの椅子に座らされた。

「今さら急いだってしょうがないじゃん。ロランの怪我は自業自得だし? 反省の意味であとちょっとくらいほっといたって大丈夫よ」
「そんな……自業自得ってなんですか!? 勇者はわたしのせいで大怪我を負ったのに」
「それは違います、アメリさん」

 冷静な声音のサラに、アメリは訝しげな顔になる。
 ロランが怪我をしたのは自分が魔物に食べられてしまったからだ。どう考えてもアメリが悪いのは明らかだ。

「悪いのは全部わたしです。だってみなさんの足手まといになってるんですから」
「いいえ、身を守る術を持たないアメリさんを、こちらの都合で危険な場所に連れて行くんです。ロランも含め、わたしたちにはアメリさんを守る責任があります」
「そうそう。それにロランは判断ミスをした。攫われたアメリを救出するにしても、ただ闇雲に飛び出した挙句に怪我するなんてさ。リーダー失格って感じだし?」

 そう言われてもロランが悪いとは思えない。
 アメリはふたりの言葉に戸惑った。

「だけどわたしなんかを助けるために勇者は怪我をしたんですよ?」
「わたしなんかって何ですか? アメリさんはロランの聖剣の乙女でしょう?」
「そうですけど……それはわたしが聖剣を持ってるってだけで」
「勇者に聖剣を手渡せるのは、この世でアメリさん、あなたしかいないんですよ。それだけでも貴重な存在です」
「あー、やだやだ。アメリ、また卑屈になってるし」

 やれやれとマーサが肩をすくめた。
 いつもはそんな態度に小言を言うサラも、今回はマーサと同様に感じているようだ。

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