恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「ねぇ、アメリ。もし魔物に食べられたのがあたしかサラだったら、ロランは怪我なんてしなかったはずよ? 聖剣がなくたって、無傷で救出できてたと思う」
「そうですね。普段のロランなら難なくこなしたでしょうね」

 アメリは無意識に首をかしげた。 
 マーサとサラの言いたいことがよく分からない。

「ウケる、アメリってばまったく理解不能って顔してるし」
「アメリさん、ロランは冷静でいられないくらい、アメリさんのことを大事に思っているんですよ」
「でもそれはいないと困るからそう思うだけで。勇者を癒せるのはわたしだけだから……」
「それはロランの口から直接聞いたことですか?」
「え? いえ、でも言われなくたって子供にでもすぐ分かることですし……」

 うつむき加減でアメリが言うと、サラとマーサが目を見合わせた。

「ね、重症でしょ?」
「確かにそうですね」

 マーサの言葉に、サラは思案顔で同意した。

「ま、全部ロランが悪いでしょ」
「全てロランのせいにするのはどうかと思いますが……でも、アメリさん。きちんとロランと話し合うことをお勧めします」
「そうそう、アメリもほんとの気持ち、ロランにちゃんと伝えないと」
「ほんとの気持ち?」
「好きなんでしょ? ロランのこと」

 真正面からズバッと言われ、アメリはしばらくぽかんと大口を開けていた。

「え……? 好き? わたしが、勇者を?」
「違うの?」

 小首をかしげたマーサに、アメリも同じポーズを返して見せる。

「その感情の名前がなんであれ、アメリさんはロランの怪我が耐えられないのでしょう? その気持ちがすべてではないでしょうか」
「はー、めんどくさっ。好きだから好き! それでいいじゃんか」
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