恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第28話 名前を

 アメリの声がけに返ってきたのは、思いのほか元気そうなロランの声だった。
 ベッドで横たわっていたロランは、腕をついて体を起こそうとする。痛みで顔が歪んだのが分かり、アメリはベッドサイドに駆け寄った。

「来るのが遅くなってごめんなさい」
「いや、君が回復してなによりだ。俺こそ余計な手間を掛けさせてすまない」
「余計だなんて……」

 クッションに背を預けて息をついたロランが、アメリに手を伸ばしてくる。
 届きやすいよう、アメリは自ら顔を近づけた。

「よかった。顔色も随分と良くなったな」

 頬に触れ、ロランは心からほっとしたような笑みを漏らした。
 胸に巻かれた包帯には新しそうな血がにじんでいる。丸三日、ロランは苦痛に耐えていたのだ。
 そう思うとアメリは泣きそうになった。

「わたしがすぐに起きなかったから……」
「それだけ君は危険な状態だったということだ。俺のことは気にしなくていい」
「そんなの無理です。だって勇者が怪我したのはわたしのせいだもの」
「いや、君は何も悪くない。君を守り切れなかったのは俺の落ち度だ。危険な目に合わせて本当にすまなかった」
「謝らないでください。わたしが魔物を踏みさえしなければこんなこと起きなかったはずです。ああなる直前に、注意するよう言われたのに」

 唇を噛みしめたアメリに、ロランは重苦しいため息をついた。
 呆れられても仕方がない。やはり自分はロランにとって足手まといだ。

「俺は勇者失格だな」
「え?」
「自分の聖剣の乙女にこんな思いをさせているんだ。まったく、我ながら不甲斐ないとしか言いようがない」

 さびしそうに言いながら、ロランはアメリを抱き寄せた。
 乗り上げたベッドが揺れて、アメリもロランにしがみつく。

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