恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「マーサ達にも叱られたんだ。君に自信がないのは俺が頼りないせいだって……」
「そんなこと……!」
「いや、不安にさせて悪かった。聖剣の乙女、君のことは俺がきちんと守る。いや、俺に君を守らせてほしい」

 こんなときは何と返せばいいのだろうか。間近で見つめられ、アメリは目を泳がせた。
 ロランは勇者として言っているだけだ。別に恋人に対して永遠の愛を誓っているわけではない。
 それなのにアメリは期待で胸をときめかせてしまっている。
 勘違いして傷つくのは自分自身だ。勇者と話し合えと言っていたサラの言葉を思い出し、アメリは慌ててロランに確かめた。

「あ、あの、それはわたしが勇者の聖剣の乙女だからですよね?」

 単純にアメリがいなくなると困るから。
 それ以外に理由はないはずだ。

「それはもちろん……」

  言いかけてロランはふっと笑った。

「聖剣の乙女。君は俺に抱きしめられてすごくドキドキしてるだろう? 今だいぶ痛みが楽になった」
「ええっ」

 跳ねた胸の鼓動を悟られまいと、アメリはロランの腕から逃れようとした。
 そこをかえって強く抱きしめられる。

「逃げなくってもいいじゃないか。君は素直じゃないな。体はこんなにも正直なのに」
「なっ」

 真っ赤になったアメリを前に、ロランは楽しそうに声を上げて笑った。
 こんな子供みたいなロランを見るのは初めてだ。
 うれしいようなむずがゆいような、そんな思いがアメリの胸の奥をきゅうっと切なく締めつける。

「……つっ」

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