恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 突然ロランは包帯の胸を押さえた。
 さっきよりも出血の範囲が広がってきている。

「勇者……!」
「少しばかり折れているらしくてな。はは、笑うとどうも骨に響いていけないな」

 言いながらロランは、ますます笑いをもらしている。
 そしてまた痛がっているから意味が分からない。

「わ、笑ってる場合ですか!」
「そうなんだが……君がいると元気が出てくるんだ」

 アメリは再びロランに抱きすくめられた。
 身動きできないほどの腕の力に、収まりかけていた心臓が早鐘のように鳴り始める。

「いい匂いだな」

 首筋のあたりをすんと嗅がれ、アメリの声が上ずった。

「そ、それはここに来る前に湯を浴びさせてもらったから……」
「湯か……気持ちよかったか?」
「は、はい」

 何が楽しいのか、ロランはいまだにアメリの匂いを嗅いでいる。

「今度一緒に入らないか?」
「ふぇっ、い、一緒に!?」
「ははは、また痛みが引いた」

 からかわれていることが分かって、アメリは赤くなりながらも頬をふくらませた。

「もう! 痛いくせになに笑ってるんですか!」
「すまない。恥ずかしがる君があまりにも可愛くて」

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