恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 冗談で言ってるのは分かっているのに、さらに赤くなる自分に腹が立つ。
 しかし包帯ににじむ出血がさらに広がる様に、アメリは顔を曇らせた。

「勇者、冗談言ってないで本気で治しましょう?」
「別に冗談ではないんだが……」
「勇者!」

 アメリが目をつりあげると、降参したようにロランは軽く両手を上げた。

「ああ、そうだな。こうして手は動かせるんだが、正直この姿勢以外は取れないんだ。聖剣の乙女、悪いが俺の上にまたがってくれないか?」
「分かりました」

 なるべくベッドを揺らさないように、アメリはロランをまたいで膝立ちになった。
 胸なり股なり、ロランが届きやすいようにと、できるだけ近くに寄っていく。
 いつもならここでどこかしら触れて来るのに、アメリをじっと見上げたままロランは動こうとしなかった。

「勇者……?」
「服を全部脱いでくれないか?」
「えっ、ぜんぶっ!?」
「ああ、全身が痛むんだ。裸になってくれた方が俺も触れやすい」
「わ、分かりました」

 そう真剣に言われては、アメリも嫌とは言えなかった。
 これは治療行為だ。恋人同士のプレイなどではありはしない。
 ブラウスのボタンを外す手の動きを、ロランの視線がじっとりと追いかけてくる。

「あ、あの、そんなに見ないでください」
「ずっと動けなくて退屈だったんだ。少しは楽しませてくれてもいいだろう?」

 自分のストリップなど見て何が楽しいのだろうか。
 不思議に思うも、ある結論に辿り着く。

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