恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 恐る恐る会話に参加する。
 聞き捨てならない台詞を、アメリはスルーすることなどできなかった。

「勇者が魔物から受けた傷は、聖剣の乙女にしか癒せないんだ」
「でも怪我ならサラさんが……」
「それが勇者の怪我だけは白魔法が効かないんです」

 申し訳なさそうにサラが言う。

「もしそうだとしても、勇者とわたしが同じ部屋だなんて意味が分かりません」
「わたしもそう思います。今ロランが怪我をしてるわけでもないのに、そんな不潔なこと神が許しませんわ」
「不潔って……サラは潔癖だなぁ。遅かれ早かれ勇者と乙女は結ばれるんだよ? いざと言うときスムーズに事を進めるためにも、アメリは普段からもっとロランと親密になっておかないと」
「結ばれる? 誰と誰が?」
「だからロランとアメリだってば」
「はぁ? 意味分かんない!」

 絶叫したアメリにヴィルジールは不思議そうな顔をする。

「なんで? そんなに嫌がることないのに。ロラン、イケメンだし勇者だよ?」
「勇者だからこそわたしなんかを相手にしなくてもいいじゃないですか」
「勇者だからこそアメリじゃないとダメなんだってば。聖剣の乙女に選ばれたのはアメリ、君なんだから」
「とにかく! 今はまだ必要のないことです。ヴィルジールは今すぐ部屋から出て行きなさい!」
「えー」

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