この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
 昨日見せた、本当の彼女は、昔のまま、少し自信がなさげで、まくし立てながら話す所も、他人のためなら大胆になってしまえることも、その優しいアップルグリーンの瞳も変わらなかった。

『この女狐めが!』
『いいか、俺はお前を絶対に愛さないからな!』

 ふと自分がアリアに言い放った言葉を思い出し、頭を抱える。

「俺は……なんて酷いことを……」

 後悔しても遅い。知らなかったとはいえ、大切な思い出の女の子に暴言を吐いてしまった。

「気にすることないぞ? アリーも仕事だと思って悪役令嬢になりきってるんだからな」

 フレディの心の内を知らないライアンは、笑いながら気にするな、と言う。

 フレディは思わず元凶になった人物――フレディをキッと睨んだ。

「姉上まで巻き込んで……彼女に何てことを……」
「……やけに突っかかるな? お前、アリーの噂を信じて軽蔑してなかったか?」
「そもそも、何故最初に教えてくれなかったのですか!」
「聞かれなかったからな?」

 後悔の念に苛まれるフレディは義兄を責めた。だがそんなフレディの気持ちを知らないライアンは、あっさりと答えた。

「何だ? どうした? 悪女の方がやりやすいと思ってアリーを送ったんだ。女嫌いのお前が何をそんなに気にしているんだ?」

 怖い顔のフレディにニヤニヤと話すライアン。「アリーを気に入ったのか? 女嫌いのお前が?」と聞いてきそうな勢いだ。

「彼女は……」

 説明しようとして口を閉ざす。

 フレディにとっては大切な想い出。あの忌まわしい公爵家を出て、魔術学院の寮を出て、魔法省の局長になるまで人を、特に女性を寄せ付けず生きてきた。

 四年前、たった一度、触れた女の子以外は。

 フレディが黙ってしまった所で、執務室のドアがノックされた。

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