この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
 ぽかんとするフレディ。

 アリアと結婚する、と前日に突然報告したとき、サーラはすごい剣幕で反対した。アリアを追い出そうとするんじゃないかと心配したほどだった。

 まあ悪役令嬢なら仕返しするかもしれない、サーラのことは守らなければ、と思っていた昔の自分をフレディは内心殴りつける。

「サ、サーラさん、フレディ様のおっしゃる通りです」

 アリアがおずおずとサーラに言う。

「まあ! 利用されて可哀想に!」

 アリアを抱き締めるサーラ。二人はいつの間に仲良くなったのか。

「サーラ、話が進んでおりませんよ」

 ベンが優しくその場をとりなす。「そうね」とフレディに顔を向き直すとサーラが続けた。

「フレディ様と結婚された悪女がいつまでも部屋から出て来ないので、起こしに行ったら部屋にいないじゃないですか! そしたら見慣れない若いメイドがくるくるとよく動き回っていて……」
「あの、お屋敷の方に何かすることはないかと尋ねたら……」

 サーラの言葉にアリアが付け足す。

 フレディと悪役令嬢の結婚は屋敷の中でも話題になっていた。悪女は赤い燃えるような髪の色をしていると有名だった。

 しかしアリアのその時の髪の色はラベンダー色。

 この家は若いメイドを採用して来なかったので皆驚いたが、即戦力が来たと喜んでアリアにお仕着せを渡し、仕事を分担した。

 サーナが気付いた頃にはいつもに増して屋敷中がピカピカになっていた。そして何も食べていなかったアリアはサーナに声をかけられた所で、大きくお腹を鳴らした。

 この屋敷に若い女性はアリアだけ。そしてそのアップルグリーンの瞳でサーナは彼女がアリアだと気付いた。アリアにご飯を与えると、すぐにベンを問い詰めた。そして今に至る。

「朝食も摂らず、屋敷中を掃除していたんですよ! ご令嬢ともあろう方が! 事情を聞いた後も、お世話になるから何かしたいと言って……」

 サーナは涙ながらに言った。アリアにずいぶん絆されたらしい。

 結局アリアの懇願によって、そのまま通いのメイドたちに混じって掃除をしていた所に、フレディが帰って来たようだ。

「結婚初日すら帰りが遅かったのに、今日はどうされたんですか?」

 サーナの厳しい目がフレディを捉える。主人だというのに、すっかり悪者扱いだ。しかし幼い頃から自身を知るサーラにフレディは弱い。

「いや……俺も彼女が本当は悪女なんかじゃないって昨晩初めて知ったんだ」
「も、申し訳……!!」
「いいから!!」
 

 悪役令嬢を全う出来ていないアリアは勢いよく土下座しようとして、フレディに止められる。

「まったく、君は……」
「フレディ様?」

 眉尻を下げてアリアの肩を抱くフレディに、ベンもサーナも驚愕した。

「フ、フレディ様が自ら女性に触れた……?!」
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