この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜


「意味がわからない……」

 フレディに開放された後、アリアは再び、屋敷の中を掃除していた。

「メイドのようなことはしなくて良い」とフレディに言われたものの、「悪役令嬢になれないなら、せめて仕事をさせてください!」と涙目でフレディに訴えたら、折れてくれたのだ。

(悪役令嬢を全う出来なかった私はクビかと思ったのに……)

 レイラにメイクという魔法をかけてもらい、悪役令嬢の魂が自分に入り込むと、何故か強気になれる。ライアンの考えた、「悪役令嬢の振る舞い」としての台本も丸暗記で、それらしく完璧に振る舞えていた。

 しかし、髪の色を変える魔法薬はまる一日は保たない。

 だからこそ、初夜の時に、平謝りをした。

(まさか、同じ部屋で寝るなんて思わなかった)

 とりあえず向かわされたローレン公爵邸で、その日のうちに結婚届けが出され、そのまま住むことになるとは思わなかった。

 レイラからは、「また明日もいらっしゃいね」と言われていた。

 アリアは形ばかりの契約結婚のため、通いで良いと思っていたのだ。

(一緒に住まない妻なんていないものね……)

 そう自問自答して、フレディの振る舞いを思い起こす。

 フレディもアリアが悪役令嬢「役」であることを知っていると思っていたのに。

(フレディ様もノリノリで演技されているかと思ったら、あれは本当に「悪役令嬢」であるアリアへの蔑みだったのね……)

 アリアはフレディに言われたことは気にしていない。むしろ、「悪役令嬢」になりきれていたのだと喜んでいた。

(だからこそ、フリだったってばれて、クビになると思ったけど……)

 先程の甘い言葉を吐くフレディが脳内に浮かび、アリアの顔が赤く染まる。

「意味がわからない……」

 そしてまた堂々巡りする。

 フレディに必要なのは「悪役令嬢」だったのではないのか。

『そのままの君で、俺の妻としてここで暮らすんだ』

「意味がわからない……」

 アリアはまたポツリとこぼした。

(悪役令嬢じゃない方が、フレディ様はやりやすいのかな? でも、私は……)

 アリアは首をぶんぶん振りながら、足元の床を勢いよく磨いていく。

「悪役令嬢じゃない私なんて、価値が無い……」

 盛大な溜息を床に向かって吐き出す。

 がっくりとうなだれた所で、サーナから声がかかった。

「リア、今度はこっちを手伝ってくれる?」
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