この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「これにサインを」

 アリアは契約書に一通り目を通すと、燃えるような赤いストレートの髪を耳にかけ、サインするために身体を屈ませた。

「どうぞ」

 サラサラとサインを記した契約書をアリアはフレディに手渡そうとする。

「――っ!」

 二人の手が触れそうになった所で、アリアはフレディに手を払われてしまった。

 ギロリとこちらを睨むフレディに、アリアは気に留めず微笑んだ。

「失礼しました。女嫌いで潔癖、というのはお噂通りですね?」

 アリアを払ったフレディの手にちらりと視線を流し、微笑する。

 彼の手には手袋がはめられている。それでも、アリアに触られるのは嫌だったらしい。

「ふん、そうじゃなきゃ、誰がお前みたいな打算的な女と契約結婚なんか……」

 フレディは侮蔑の表情でアリアを見やり、触れそうになった手を、手袋をハンカチで拭き取った。

「だからこの屋敷の使用人も少ない。楽できると思うなよ? 最低限のことは自分でやってもらうからな」
「……この秘密の契約結婚を漏らさないためにも人は少ないほうが好都合ですわね」
「…………」

 フレディの冷たい物言いにも動じないアリアに、流石のフレディも言葉が出て来なくなる。

(もっと面倒くさく、わめくと思ったのに……。何で俺に都合よく聞き分けが良いんだ?)

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