この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「スープを私にかけないのですか?」
「は?」

 もしかしたら、悪役令嬢の仕事の内で、そんな話のネタを作ろうとしたのでは、とアリアはほんのり思っていた。

(でなきゃ、潔癖のフレディ様にお食事なんて……)

「君は何を言っているんだ?」
「へっ……」

 悪役令嬢として振る舞えなくても、その仕事は出来るのかと期待したアリアだったが、フレディからは呆れた声が返ってきた。

「ああああ、あの、悪役令嬢・アリアがフレディ様に食べさせようと騙し討ちで出したスープに気付き、私に投げつける筋書きでは……?」

 そこまで言って、フレディからは深い溜息が返ってきた。

(え、え、え……!?)

「君は、どうしてそこまで悪役令嬢をやりたいんだ?!」

 どうして……

 フレディに改めて聞かれると、固まってしまう。

「あ、あ、あ、あの……それが私の「お仕事」ですので……」
「君の仕事は、「俺の妻」だろう?!」

 必死に言葉を吐き出すも、フレディを怒らせたらしい。

 怖い表情のフレディに手を掴まれ、青ざめるアリア。

「す、すすす、すみません!! 悪役令嬢じゃないと私なんて価値が無いのに!!」

 目を閉じ、力いっぱい叫んだアリアに、フレディは目を大きく見開いた。

「……誰が君をそんなにしたんだ」

 優しく語りかけるフレディに、アリアは恐る恐る目を開ける。

 ラピスラズリのような綺麗な深い青が、悲しそうに揺れていた。

「フレディ、様?」

 首を傾げるアリアに、フレディは取ったままのその手を引いて、立ち上がる。

「おいで」
「へえっ!?」

 まだスープしか完食していないのに、フレディはアリアの手を引き、食堂を後にした。
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