この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「ここの薔薇……、君に見せたかったんだ」

 ぽつりと呟いたフレディはアリアを開放すると、手を引いて薔薇の前に歩み出る。

「わあ……凄い。色んな色……あっ、これ、アップルグリーン?!」

 不揃いに並ぶ薔薇を一通り眺め、アリアは一輪の薔薇に近付く。

「君の、瞳の色だよ」

 しゃがんで薔薇を見ていたアリアに影が落ちる。見上げると、フレディが横にいた。

「私の……?」
「君との約束、だったから」

 フレディの言葉に、アリアの記憶の中に、ラピスラズリのように美しい瞳を持つ青年(・・)が浮かんで、消えた。

(どこかでみたことのある瞳の色だと思ってた。私、もしかしてフレディ様と昔会ったことがある?)

 戸惑いに揺れるアリアの瞳を見て、フレディはふ、と笑った。

「覚えていなくても良いんだ。俺は、君にこの薔薇を見せたかった。それだけだから」

 少し寂しそうに、でも嬉しそうにはにかんだフレディを見て、アリアは胸が何故か締め付けられた。

(私、大切なことを忘れているのでは……?)

「ねえ、アリアは仕事だからって他の男に唇を……」
「へっ?」
「……何でもない」
「はあ……」

 必死に記憶を辿っていたせいで、フレディの話を聞き逃してしまった。

 何でもない、と言ったフレディは、バツが悪そうに、「くそっ」と言った。

(フレディ様、どうしたんだろう?)

 アリアが心配そうにすると、フレディは、「何でもないよ」と言って笑った。

 そして二人はそのまま、庭園で薔薇を見ながら、アリアが持ってきた昼食を一緒に食べた。

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