この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「……すまなかった、アリア……」

 シン、と静まり返った食堂にフレディの声が低く響く。

「い、いえ!! あの、お仕事……ですから。それに、色々言われるのは慣れているので……」

 アリアが口にした「仕事」「慣れている」というどちらの言葉も、フレディを悲しくさせた。

「アリア、君はもっと俺に甘えてくれて良いんだよ?」
「悪役令嬢としてですか?」

 お仕事モードなアリアの言葉にフレディはがくりとする。

「いや、俺が君を甘やかすから、君も安心して身を任せて欲しい……っ」
「はい! 悪妻として、虫除けしつつ、離婚されるための我儘ムーブもお任せください!」

 意気揚々と斜め上の返事が返って来て、やっぱりというか、少し期待したというか、フレディは机に肘を付いて頭を抱えた。

「フレディ様?」

 アリアが覗き込むと、フレディはアリアの手を取った。

「ねえ、リア(・・)のままでも甘えて良いんだよ?」

 あえて伝わるようにフレディは言った。アリアは目をパチクリさせると、フレディの手に自身のもう片方の手を添えた。

「アリア……」

 ようやく伝わったかとフレディが期待の眼差しを向ける。

「フレディ様、リアはメイドですので、甘えるのは仕事ではありません」

 真面目にきっぱりと言い切るアリアに、フレディはまたがっくりとした。

「フレディ様?」

 きょとん、とするアリアに、フレディは完全に吹っ切れた(・・・・・)

「うん。まあ、わかった。宣言した通り、俺は見せびらかすように外でも家でも、君に遠慮なく触れるし、君が仕事だって言うなら、存分に務めを果たしてもらうから。覚悟してね?」

 握りしめられた手の隙間から、フレディが挑戦的な目でアリアを捕らえた。

 そのラピスラズリの瞳に吸い込まれそうになり、アリアの胸が高鳴る。

 フレディが自分の「悪役令嬢」に期待してくれているから嬉しくてこんなにも胸が煩いのだと、アリアは自分に言い聞かせるように、胸の中で何度も呟いた。
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