この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「幸いにもすぐに衛兵が駆けつけ、アリーは無事だった。王女はもちろんお咎め無しで、アリーが悪者にされた。アリーはショックで、あの庭に関する記憶を全部無くしたようだ。それからも王女に献身的に仕えていたが、後はお前に話した通りだ」
「俺は……」

 フレディは顔を覆った。

「俺は自分が覚えられていないことばかりショックを受けて、アリアの気持ちを慮ることをしなかった……呑気に薔薇を見せて……」
「お前は知らなかったことだから仕方無い」
「でもあの庭は魔法局の真下です……なぜ俺が知らないんです?」

 アリアに助けてもらってから、何度かあの庭で会った。会ったというより、フレディがアリアに会いに行っていたともいえる。

 しかしアリアはある日を境にあの庭に来なくなった。王宮中を探したが、多く働くメイドの中でアリアを見つけることは困難だった。

 フレディはアリアが王女付のメイドだと知らなかった。王女を避けていたのだから、アリアとも出会えるはずが無かった。

「もっと早く知っていれば……」

 フレディは悔しさで顔を歪ませた。

「仕方ないさ。あの事件は国王陛下の命の元、内々に揉み消された。当時の宰相によってな」
「…………アリアは、そんな前から王女の、あの王家の犠牲になっていたのですね」
「ああ。だからこそ、メイドをクビになった時、声をかけた。俺が宰相で良かったよ」

 ライアンの言葉に、フレディは本当にそうだと思った。

 当時の宰相のままだったら自分はアリアに再会することは無かった。義兄が早くに権力を持ってくれたことに感謝した。

「アリーちゃんはね、無意識に男の人を怖がっていたのよね。でも悪役令嬢に扮すると、途端に強気で自信に満ちた彼女になる」
「ああ……」

 レイラの説明にフレディも納得する。

 悪役令嬢に扮した彼女の自信はどこから来るのか。まったく違う自分になれることを喜んでいるようにも見える。

「だから、アリーちゃんのままでフレディにキスを許した、って聞いて驚いたのよ。最初は無理やりでもね?」
「はっ?!」

 初めてアリアにキスをした時のことを蒸し返され、フレディは顔を赤くして姉を見た。

「心の奥底にはフレディとの記憶があるんじゃないかな?」
「そうだな……。アリーはフレディには無意識に心を許している気がする」

 レイラとライアンを「えっ、えっ」と見比べながらフレディは顔を増々赤くする。

「フレディ、アリーに本気なら、お前が幸せにしてやって欲しい」

 まるでアリアの兄のように真剣に彼女を託す義兄に、フレディもしっかりと目を見て答える。

「そのつもりですよ」

 フレディの答えにライアンとレイラは幸せそうにお互いを見合った。
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