この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜

20.二人でお仕事

「ほらアリア、この石に触れて」
「あ、あのフレディ様?」
「何だい?」
「……近すぎませんか?」

 魔法具に慣れるまで一緒に片付けをすると言ったフレディに、アリアは後ろから密着される形で使い方を教わっていた。

「でも、またアリアが落ちたら心配だから……」
「あの……もう落ちたりしませんので……」

 にっこりと笑いながらもアリアから離れないフレディに、アリアはドギマギしながら答える。

「心配だから、慣れるまで、ね?」

 至近距離で念を押され、アリアは、うっ、となる。

 魔法具に触れ、ふわりとアリアの身体が持ち上げられれば、本棚の一番高い所まで届く。

 アリアにとっては高い場所だが、フレディと同じ目線に何度も上がり、その度に見つめられている視線に頭がのぼせそうになる。

「あの、フレディ様……もう大丈夫ですから……」

 赤くなりながら振り返れば、フレディの顔はすぐ近くにあった。

「うん……もう少しだけ……」

 絡み合う同じ高さのフレディの視線からは熱っぽさが窺えて、アリアは目を伏せてしまう。

「何か、新鮮――」

 そう言ったフレディに頬をグイッと引き寄せられると、アリアは彼にキスをされた。

 魔法具から落ちないように、フレディがしっかりと身体を支えてくれている。板から落ちないように、アリアもしっかりと足を踏みしめる。

「……スティングさんに怒られます……」
「仕事はちゃんとしてるよ」

 おでこをつけたまま、アリアは困ったように言った。フレディは少しだけ拗ねながら返す。

(何か、可愛い……)

 そんなフレディにアリアは愛しさを募らせる。

(わ、私……! お仕事なのになんてこと……!)

 自分のフレディに対する感情にアリアはすぐに叱咤した。

「図書館のために開発した物だったけど、アリアとこんな(・・・)使い方が出来るなんて儲けものだったな」
「へえっ?!」

 恥ずかしいことをサラッと言ったフレディにアリアは驚きで体勢を崩す。

「アリア!」

 今度は落ちる前に魔法具の上でフレディが抱きしめる形で支えてくれた。

「あ、ありがとうございます……」

 心臓をバクバクとさせながらアリアは抱き締められたままお礼を言う。

「……まったく、やっぱり危なかっしいから、このまま二人で片付けようね?」
「そ、それはフレディ様が……」

 やれやれ、と呆れた声を出すフレディに、アリアは少し抵抗気味に言うも、彼に「ん?」と優しく圧力をかけられ、ゴニョゴニョと黙ってしまった。

 そうしてアリアはフレディに至近距離で見守られながら、机の上を綺麗に片付けた。

< 57 / 100 >

この作品をシェア

pagetop