この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「何あれ……」

 会場を去るフレディとアリアを端の方で見つめていたのはローズ第一王女。

「王女様、そんなに身を乗り出しては殿下に見つかります」
「うるさいわね! フレディ様が行っちゃうじゃない」

 伴に連れていたメイドと二人、ローズはパーティー会場の柱の影からこっそり中を窺っていた。

「お兄様も何で私を招待してくれないのよ!」

 プリプリと小声で不満を漏らしながらもフレディが行った方向を目線で追う。

 このガーデンパーティーは王太子である兄、ルードが主催の物。当然、王家で妹である自身も呼ばれると思っていた。が、実際には呼ばれなかった。

 メイドに命令して招待客のリストを手に入れたローズは、フレディが出席することを嗅ぎつけ、こうしてこっそり様子を見に来たのだ。

「フレディ様が結婚したなんて嘘よ……何よ、あの女……」

 魔法省の局長になってから、フレディはローズ主催のお茶会やパーティーは必ず欠席の返事をしていた。父や兄の主催する物には本当に仕事が入っている以外は仕方なくやって来る。ローズはそのわずかな機会でしかフレディを見ることは叶わなくなっていた。

 昔は身体に触れられるくらい近くに行けたのに、男遊びを隠蔽してからは、兄に監視役を付けられるようになった。元々、フレディを焦らすための男遊びだったが、それすら出来なくなり、近寄ることも出来なくなっていた。

 今年も社交シーズンがやって来たかと思えば、フレディからは「結婚して妻がいるのでこういう誘いはもう辞めて欲しい」という書状が届いた。

「今度は彼が私を焦らそうとしているんだわ」

 寄り添っていた二人を思い出し、ローズは長い爪を口で噛み締めながら顔を歪ませた。

「あれは……聞いた名だとは思っていましたが……」

 一緒に会場を覗いていたメイドが思い出したかのように呟く。

「あの女、知ってるの?!」

 ぐるん、と怖い顔で向き直るローズに、メイドはおずおずと答えた。

「はい……あの、前に王女付でメイドをしていた者です」
「そうだったかしら?」

 メイドの言葉にローズは首を傾げながら思い出そうとする。

「はい。記憶力が良く、招待状の管理を任されており、その……クビになったメイドです」

 メイドは王女の男遊びのせいで、という部分はあえて言わずに説明した。

「……ああ!」

 そこまで説明されてローズはやっと思い出す。

「あの貧乏伯爵家で役立たずだったあの子ね」

 他のメイドたちと憂さ晴らしに嫌がらせをしていたことを思い出す。

「悪役令嬢のアリア……あの時、私が押し付けた悪評は続いていた。メイド長が追い返されて来た時の話を聞く限り、あの冴えない役立たずは本当の悪女だったというわけ……」

 ローズの中で忘れていたメイドと悪役令嬢と噂のアリアが繋がる。

「そんな女にフレディ様は渡さないんだからっ」

 再び爪を噛み締め、ローズはパーティー会場を見つめた。
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