この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
 庭にたどり着いたその青年は、その場にうずくまってしまったので、アリアは慌てて駆け寄った。

「触るなっ!」

 アリアは伸ばした手を青年に振り払われ、目をパチクリとさせる。

「俺に……っ、構うな……」
「でもっ……」

 見た目にも辛そうなその姿に、アリアは本気で心配をした。しかし――

「お前も……この公爵家の恩恵に預かろうとする輩か……この女狐め」

 アリアを牽制しようとする青年がギラリと睨む。

 アリアは青年の言葉を頭の中で反芻して目をパチクリとさせた。

 金色の髪は王家に縁のある印。こちらを真っ直ぐに睨む瞳はラピスラズリのように綺麗な深い青だった。それがフレディとの出会いだった。

「ももも、申し訳ございません!! まさか公爵様ですか?!」

 アリアは後ずさり、土下座しそうな勢いでフレディに頭を下げた。

「は?」

 まだ顔が青いフレディだったが、アリアの行動に思わず目を瞠る。

「で、でででも、失礼を承知で、気分が優れなさそうですので……あのよろしければベンチに……薬を持って来ますので」

 アリアは自信なさげに目を伏せながらも、フレディに早口でまくし立てた。 

「いや、俺は……」

 フレディが何か言う前にアリアはどこかに走って行ってしまった。

 フレディはふらつきながら、近くのベンチに目をやると、そこに腰掛けた。

 魔法省の真下にあるのに、ここには初めて来た。

 王女のお茶会で、迫られ、気分が悪くなり、吐きそうだった。何とかお茶会から逃げて来た先が、自身の通う魔法省だった。

 アリアがいた場所には掃除道具が並び、刈られた雑草が袋に詰められていた。

(庭師か……? いや、メイドのお仕着せを着ていたな)

 フレディが思案していると、アリアが走って戻って来た。

「お、お薬です!」

 水の入ったグラスと一緒にアリアがフレディに手渡そうとする。

「ぐうっ……」

 アリアの手が触れた瞬間、我慢の限界が来たかのように、フレディはそこで嘔吐してしまった。

「大丈夫ですか?!」

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