この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに何故か潔癖公爵様に溺愛されています!〜
「こうしゃく……様……」

 ベッドの上で覚醒したアリアは、なぞるように声を出した。

「残念だが、ここに助けが来ることはない」

 上から降り注ぐマディオの声に、自分の置かれた状況を思い出す。

(こんな時に全部思い出すなんて……)

 まだ混乱する頭で、マディオをぼんやりと見上げる。

「マディオ、早く済ませてよ」

 ソファーにぼすん、と身体を落としたローズが苛立ちながら言った。

「はい」

 マディオはローズからアリアに視線を戻すと、ニタッと気味悪く笑った。

(嫌だ……!!)

 マディオの手が伸び、引き裂かれたドレスが剥ぎ取られる。

「フレディ様……っフレディ様っ!!」

 気付けば彼の名前を叫んでいた。

「ちょっと……っ、フレディ様の名前を気安く呼ばないでっ! ……まあ、ここは王族しか知らない隠しの間だから、フレディ様が来ることはないわっ!」

 ローズはソファーから立ち上がり、激昂したかと思うと、ふん、と鼻を鳴らして笑った。

「マディオ、早くその女を黙らせて!」
「はい」

 ローズの命令にマディオの手がアリアの肌に触れる。

「嫌だ! フレディ様、フレディ様――」

 叫んだ瞬間、隠し間の扉がドオン、と激しい音を立てて吹き飛んだ。

「な、何?!」

 爆風に煽られながら手で顔を覆うローズ。

 マディオも手を止め、入口を振り返った瞬間、風でベッドの上から吹き飛ばされる。

 何が起こったのかと身体を起こしたアリアの目に入ったのは、吹き飛んだ入口に翻る魔術師のマント。

「フ、フレディ様……っ」

 その姿を見た瞬間、アリアの目から涙がボロボロと溢れた。
 
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